PCB廃棄物とは?低濃度・高濃度の違い、処分方法を解説
皆様はPCB廃棄物がどういったものかをご存じでしょうか。PCBという人体に有害な化学物質を含むPCB廃棄物は、全国で処分期限を設けて処分が進められている廃棄物です。本記事では、PCB廃棄物の基礎知識や処分方法について詳しく解説します。PCB廃棄物の処理方法について知りたい方や、自社にPCB廃棄物があるかどうかを把握していない方はぜひご一読ください。
PCB廃棄物とは?
PCBとは、PolyChlorinatedBiphenyl(ポリ塩化ビフェニル)のそれぞれの頭文字をとった略語です。PCBは人工的に作られた化学物質であり、おもに油状の形態をしています。水に溶けにくいことや熱で分解しにくいこと、電気を通しにくいことなどの性質から、さまざまな用途で利用されていました。
PCBが使用されていた代表的な電気機器としては、変圧器やコンデンサー、蛍光灯の安定器などがあり、これらのPCBを含む機器は「PCB廃棄物」として適切に処分することが義務付けられているのです。
広く利用されていたPCBですが、1968年にPCBが誤って食用油に混入して健康被害を発生させたカネミ油症 (ゆしょう) 事件が発生したことで、PCBの毒性が注目されるようになりました。1972年にはPCBの製造が中止となり、2001年には「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」(PCB特措法)が施行され、PCB廃棄物の確実かつ適正な処理が推進されています。
PCBの人体への影響
PCBが人体に入った場合、さまざまな中毒症状が表れます。爪や歯茎などが赤黒くなる色素沈着や、塩素ニキビと呼ばれる赤黒い肌荒れ、まぶたや関節の浮腫、関節痛、頭痛、四肢のしびれなど、複数の症状が報告されています。PCBはその特性として脂肪に溶けやすく分解されにくいため、生物の体内に蓄積しやすい化学物質です。
飛散時には直ちに発生場所から退避すること、顔や体に触れた場合は拭き取って石鹸でよく洗い流すこと、などの処置を施します。
カネミ油症事件で健康被害を受けた方は、40年以上経過した時点でも血中ダイオキシン類濃度の平均値が健常者の約10倍あるとの調査結果も出ています。このように、PCBはその性質上、長期にわたって健康被害を及ぼす可能性のある化学物質なのです。
高濃度PCB廃棄物とは?
PCB廃棄物は、PCB濃度によって高濃度PCB廃棄物と低濃度PCB廃棄物の2種類に分類されます。
高濃度PCB廃棄物とは、PCB濃度が5,000mg/kgを超える不燃性のPCB廃棄物、またはPCB濃度が100,000mg/kgを超える可燃性のPCB廃棄物をいいます。高濃度PCB廃棄物に該当する電気機器の代表例は、変圧器、コンデンサー、安定器です。
これらの高濃度PCB廃棄物は、中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)にてプラズマ溶融処理を行います。高濃度PCB廃棄物に該当するかどうかの判別方法としては、機器に取り付けられた銘板に特定の表示記号の記載があるかを確認することで判別できます。一般社団法人 日本電機工業会のホームページにて、高濃度PCB廃棄物に該当する対象機器とその表示記号がまとめられているので、必要に応じて参照してください。
なお、高濃度PCB廃棄物については、2023年3月31日をもって全国のエリアで処分期限を終了しています。万が一、高濃度PCB廃棄物を所有している場合は、速やかに自治体またはJESCOにご連絡ください。
低濃度PCB廃棄物とは?
低濃度PCB廃棄物とは、PCB濃度が0.5~5,000mg/kgまでの不燃性のPCB廃棄物、またはPCB濃度が0.5~100,000mg/kgまでの可燃性のPCB廃棄物をいいます。PCBが含まれている可能性のある電気機器としては、自家用電気工作物の変圧器や電力用コンデンサーのほか、昇降機や分電盤、モーターなどに付属する低圧コンデンサーが挙げられます。これらの低濃度PCB廃棄物は、環境大臣が認定する民間の無害化処理認定施設などで焼却処理することになっており、処分期限は2027年3月31日です。
以下では、低濃度PCB廃棄物の処理方法に関して詳しく説明します。
低濃度PCB廃棄物の処理方法
低濃度PCB廃棄物の処理方法の概要は次のとおりです。自らが所有している電気機器などについて低濃度PCB廃棄物であるか否かを調査し、PCBを含む電気機器などがあった場合は必要な届出を行います。その後、無害化処理のための収集運搬・処分委託を行い、処分後の届出を提出して処理完了です。
なお、低濃度PCB廃棄物については、対象の電気機器によって電気事業法が適用される場合と、PCB特措法が適用される場合に分かれます。電気事業法が適用されるものは低濃度PCB含有電気工作物と呼ばれ、低濃度PCB廃棄物のうち、下記の12種類の電気工作物が該当します(平成28年経済産業省告示第237号)。
- 変圧器
- 電力用コンデンサー
- 計器用変成器
- リアクトル
- 放電コイル
- 電圧調整器
- 整流器
- 開閉器
- 遮断器
- 中性点抵抗器
- 避雷器
- OFケーブル
電気機器などが自家用電気工作物に該当するか否かで適用される法律が異なり、届出に関する手続きにも違いが出る点に注意しましょう。
低濃度PCB廃棄物の調査
低濃度PCB廃棄物の調査においては、まず調査対象の電気機器が電気事業法が適用される自家用電気工作物か否かを確認しましょう。
自家用電気工作物であれば、電気事業法によって電気主任技術者等を選任または委託することが義務付けられているため、電気主任技術者等に調査を依頼します。
自家用電気工作物でない場合(以下、「非自家用電気工作物」という)、自ら調査するか、電気工事業者などに依頼して調査します。分電盤や電気溶接機、昇降機といった設備を確認し、低圧コンデンサーの有無を調べましょう。
低圧コンデンサーがある場合、銘板を見てメーカー名、製造年、型式を記録し、製造年が1990年以前の場合はメーカーにPCB含有の有無を確認します。製造年が1990年より後だった場合でも、設備の更新や廃棄の際にPCBの有無で悩む必要のないように記録は残しておくことをおすすめします。
低濃度PCB廃棄物の調査に際しては、絶縁油を採取してPCB濃度を測定する場合があります。PCBの分析を行う機関については、一般社団法人 日本環境測定分析協会(JEMCA)のWebサイトを参照してください。
低濃度PCB廃棄物の届出
低濃度PCB廃棄物の処理に関しては、下記の各時点で届出が必要です。このほかにも、設置者情報に変更があった場合などにも届出が必要です。
- 低濃度PCB廃棄物だと判明したとき
- 低濃度PCB廃棄物の使用を終了したとき(自家用電気工作物のみ)
- 絶縁油中のPCB濃度の確認が終わったとき
- 低濃度PCB廃棄物の処分が終わったとき
- 自社で所有しているすべての低濃度PCB廃棄物の処分が終わったとき
先に述べたとおり、対象の電気機器などが自家用電気工作物に該当するか否かで届出に関する手続きに違いがあります。
手続きが異なるのは、(1)および(2)についてです。
(1)について、自家用電気工作物の場合は、判明後遅滞なく管轄する産業保安監督部に届出を提出してください。非自家用電気工作物の場合は、管轄する都道府県または政令市に届出を提出しますが、判明した翌年度の6月30日までに報告すれば問題ありません。
(2)については、自家用電気工作物の場合のみ、使用終了後遅滞なく管轄する産業保安監督部に届出を提出する必要があります。
(3)および(4)については、いずれも翌年度の6月30日までに管轄する都道府県または政令市に届出を提出してください。
(5)については、すべての処分が終了してから20日以内に管轄する都道府県または政令市に届出を提出します。いずれの届出も所定の様式があるため、提出先のWebサイトを確認するか、直接問い合わせてみてください。
低濃度PCB廃棄物の処分
低濃度PCB廃棄物についても、通常の産業廃棄物と同様に収集運搬と処分に分けて考える必要があります。処分の委託については、環境大臣の認定を受けた無害化処理認定業者または都道府県・政令市の長からPCB廃棄物に関する特別管理産業廃棄物処分業の許可を得た処理業者に委託します。
無害化処理施設の一覧については、環境省の低濃度PCB廃棄物早期処理情報サイトにて掲載されているので、処分の際に参考にしてください。収集運搬の委託については、特別管理産業廃棄物収集運搬業の許可を有する収集運搬業者に委託しましょう。
なお、低濃度PCB含有電気工作物については、2027年3月31日の処分期限終了後も継続して使用できる無害化処理の方法(課電自然循環洗浄法)もあります。課電自然循環洗浄法については、各メーカーや電気工事業者にお問い合わせください。
よくある質問
Q.PCBの処分はできますか?
A.弊社では処分することはできませんが、処分業者のご紹介はできますので一度弊社営業部までお問い合わせください。
まとめ
PCB廃棄物についての基礎知識および処理方法の解説でした。高濃度PCB廃棄物の処分期限は終了し、低濃度PCB廃棄物の処分期限も2027年3月31日と決まっています。処分に期限がある点ばかりに注目してしまいがちですが、重大な健康被害を生じるおそれのあるPCBを含む機器を、それと知らずに使用していること自体が大きなリスクだといえます。もしPCBを含む機器の有無が定かでないのであれば、適切な管理のために調査から始めてみませんか。