プラスチック資源循環法とは?わかりやすく基礎知識を解説
海洋プラスチック問題が取り沙汰されるようになってしばらく経ちますが、プラスチック製の廃棄物の排出抑制のために「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(通称:プラスチック資源循環法)」が施行されたことはご存じでしょうか。プラスチック資源循環法は、廃棄物の削減のキーワードとして挙げられる3Rに新たなRを加えた取り組みを推進している法律です。本記事では、プラスチック資源循環法のポイントを解説します。
プラスチック資源循環法の概要
プラスチック資源循環法は、プラスチックの資源循環の取り組みを促進するための措置に関する法律で、2022年4月に施行されました。プラスチック資源循環法においては、削減(Reduce)、再使用(Reuse)、リサイクル(Recycle)の3Rに、再生可能な素材や資源への切り替え(Renewable)を加えた3R+Renewableの考え方を基本としています。これまでも推進されてきた3Rだけでなく、プラスチック使用製品を紙やバイオマスプラスチックに切り替えていくRenewableの考えが新たに追加されたものといえます。
施行の背景
日本のプラスチックのリサイクル率は27.8%、熱回収率は58.0%であり、有効利用率は85.8%に達していますが、世界全体でのリサイクル率は14%、熱回収率は14%とされており、有効利用率は28%程度といまだに低い状況です (出典: プラスチック資源循環戦略)。廃プラスチックの不適正な処理は地球規模での環境汚染を引き起こしています。SDGsの目標14においても「海の豊かさを守ろう」を掲げており、プラスチック資源の循環体制は世界レベルで求められているのです。
日本は、これまでも3Rイニシアティブやアジア太平洋3R推進フォーラムにて、資源循環の取り組みを牽引する立場にあったことから、海洋プラスチックの流出抑制に向けて貢献することが求められています。そこで、プラスチックの資源循環に向けた施策を国として推進し、日本モデルの環境インフラを世界全体に広げていくため、プラスチック資源循環法が施行されました。
事業者に求められる役割
プラスチック資源循環法では、プラスチックのライフサイクルに応じて、① 設計・製造に携わる製造事業者、② 販売・提供に携わる提供事業者、③ 排出・回収・リサイクルに携わる排出事業者のそれぞれに措置事項が定められています。以下では、各事業者の措置事項について解説します。
製造段階における設計指針と認定制度
プラスチックの資源循環をさらに進めていくためには、プラスチック使用製品の設計段階において、3R+Renewableを意識して取り組むことが欠かせません。とくに、プラスチック以外の素材への切り替えであるRenewableに関しては、設計こそが重要です。そこで、プラスチック資源循環法では、プラスチック使用製品設計指針を策定し、すべてのプラスチック使用製品の製造事業者が取り組むべき事項および配慮すべき事項が定められました。
この指針においては、構造、材料、ライフサイクル、情報発信の体制などの面から資源循環に寄与する設計が求められています。とくに優れた設計として環境大臣に「認定プラスチック製品」の認定を受けた場合、グリーン購入法上の配慮や製造に利用する施設・設備の支援などを受けられます。製造事業者に関しては、さらなる排出抑制に向けて、3RよりもRenewableの取り組みを推進しているといえるでしょう。
「特定プラスチック使用製品」を合理的に提供する
販売・提供の段階においては、提供事業者のうち、「特定プラスチック使用製品」を提供する事業者(特定プラスチック使用製品提供事業者)に狙いを定めて使用の合理化を推進しています。特定プラスチック使用製品提供事業者に該当する業種は、商品小売業、飲料品小売業、宿泊業、飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業、宿泊業、洗濯業のいずれかに限定されています。
上記の業種に該当する場合は、特定プラスチック使用製品の提供について合理化に取り組む必要があります。
特定プラスチック使用製品とは?
特定プラスチック使用製品とは、商品の販売やサービスの提供にともなって消費者に無償で提供される主としてプラスチック製の製品をいいます。「主としてプラスチック製」に該当するのは、製品全体の重量のうち、プラスチックの割合がもっとも大きい製品です。政令において、次の12製品が指定されています。
- フォーク
- スプーン
- テーブルナイフ
- マドラー
- 飲料用ストロー
- ヘアブラシ
- くし
- かみそり
- シャワーキャップ
- 歯ブラシ
- 衣類用ハンガー
- 衣類用カバー
上記の12製品にはそれぞれ対象業種が割り振られています。
(1)から(5)の対象業種は、商品小売業、飲料品小売業、宿泊業、飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業です。
(6)から(10)の対象業種は宿泊業、(11)と(12)の対象業種は商品小売業と洗濯業です。
対象業種の判断は、主たる事業に該当するかどうかではなく、事業活動において対象業種に属する事業を行っているかどうかです。たとえば、宿泊業を営むホテルにおいてクリーニングのサービスを実施している場合、洗濯業にも該当することになります。
なお、上記の12製品のうち、プラスチック製品そのものが商品と一体のものとして販売されている場合は、例外として特定プラスチック使用製品の対象にはなりません。飲料パックと飲料用ストローが一体になっている商品などがこの例外に該当します。
多量提供事業者とは?
特定プラスチック使用製品提供事業者のうち、前年度の特定プラスチック使用製品の提供料が5トン以上の事業者は多量提供事業者に該当します。特定プラスチック使用製品提供事業者については判断基準に従って環境大臣から必要な指導・助言を行うのに留まりますが、多量提供事業者については取り組みが著しく不充分な場合には勧告・公表・命令などの措置を実施することがあります。
提供事業者の判断基準
特定プラスチック使用製品提供事業者の取り組みが適切に実施されているかの判断基準として、次の8項目が掲げられています。この判断基準に従って、指導、助言、勧告、公表、命令が実施されます。
- 目標の設定
- 特定プラスチック使用製品の使用の合理化
- 情報の提供
- 体制の整備等
- 安全性等の配慮
- 実施状況の把握
- 関係者との連携
- 加盟者における特定プラスチック使用製品の使用の合理化
具体的な合理化の方法
特定プラスチック使用製品事業者が求められる「合理化」とはどのようなことを指すのでしょうか。事業者に求められる取り組みとしては、提供方法の工夫または提供する特定プラスチック使用製品の工夫の観点から7つの方法があります。
- 消費者への提供を無償から有償に変更する
- 提供を不要とした消費者にポイント還元などを行う
- 提供の要否について消費者に意思確認をする
- 製品を提供する際に、繰り返し使用するよう促す
- 提供する製品について、工夫したものを提供する(軽量化、素材の変更など)
- 適切なサイズの製品を提供する
- 繰り返し使用できる製品を提供する
上記のうち、(1)から(4)が提供方法の工夫に、(5)から(7)が供する特定プラスチック使用製品の工夫に該当します。
7つの方法を見てお気付きの方もいるでしょうが、すでに実施されている取り組みが多々あります。
(1)はレジ袋の有料化、(3)は宿泊施設でのアメニティコーナーの設置、(5)は木製スプーンや紙ストローの導入、(6)は多様なサイズのレジ袋の準備、(7)はクリーニング店でのハンガーの回収などです。
提供事業者に関しては、すでに先行事例のある取り組みを対象業種全体で取り組むことによって、使用の合理化を図り、プラスチックの排出抑制を目指しているといえるでしょう。
プラスチック製品の製造・販売事業者等による自主回収・再資源化
廃プラスチックを産業廃棄物として収集・運搬または処分する場合、廃棄物処理法に基づく業の許可が必要です。しかし、より積極的な有効利用を推し進めるには、効率的に資源を回収しなければなりません。
そこで、プラスチック資源循環法では、プラスチック製品を製造・提供する事業者が、「自主回収・再資源化事業計画」を作成し、国の認定を受けることで、廃棄物処理法上の許可がなくても自主回収や再資源化事業を実施できるようにしました。なお、再資源化には熱回収を含まないため、熱回収のみを実施する再資源化事業計画は認定されません。
排出事業者による排出の抑制・再資源化
排出事業者については、すでに廃棄物処理法によって産業廃棄物である廃プラスチックを適正に処理する責任があります。プラスチック資源循環法は、排出事業者が有する既存の責任に加えて、さらに積極的な排出の抑制・再資源化を求めています。
具体的な内容は、「排出事業者のプラスチック使用製品産業廃棄物等の排出の抑制及び再資源化等の促進に関する判断の基準となるべき事項等を定める命令」(排出事業者の判断基準省令)で明らかにされており、対象となるのは小規模企業者等を除く排出事業者です。小規模企業者等とは、従業員が20人以下の商業・サービス業以外の会社・組合、または、従業員が5人以下の商業またはサービス業の会社・組合などをいいます。
多量排出事業者とは?
小規模企業者等を除く排出事業者については、特定プラスチック使用製品提供事業者と同様に、判断基準に従って環境大臣から必要な指導・助言を行います。
排出事業者についても排出量に応じた区分があり、前年度の排出量が250トン以上の事業者は多量排出事業者に該当します。多量排出事業者については、取り組みが著しく不充分な場合には勧告・公表・命令などの措置を実施することがある点も同様です。
特定プラスチック使用製品提供事業者と異なる点として、多量排出事業者はプラスチック使用製品産業廃棄物などの排出の抑制や再資源化に関する目標を設定し、目標達成に向けて計画的に取り組みを実施することが求められます。
排出事業者に求められること(判断基準)
小規模企業者等を除く排出事業者の取り組みが適切に実施されているかの判断基準として、次の8項目が掲げられています。この判断基準に従って、指導、助言、勧告、公表、命令が実施されます。
- 排出の抑制・再資源化等の実施の原則
- 目標の設定
- 情報の公表
- 情報の提供
- 加盟者における排出の抑制及び再資源化等の促進
- 教育訓練
- 管理体制の整備
- 関係者との連携
排出抑制のために必要な取り組み
判断基準(1)では、排出事業者に求める取り組みとして、①排出を抑制すること、②適切に分別・排出すること、③再資源化できるものは再資源化すること、④再資源化できない場合、熱回収できるときは熱回収をすること、の4点が挙げられています。プラスチック資源循環法においては、この判断基準(1)の「①排出を抑制すること」に関して、次の3つの取り組みが定められています。
- プラスチック使用製品の製造・加工・修理の過程において、排出抑制を促進する取組を行うこと。
- 流通又は販売の過程で使用するプラスチック製の包装材について、排出抑制を促進する取組を行うこと。
- 事業活動において使用するプラスチック使用製品について、排出抑制を促進する取組を行うこと。
この取り組みにおいては、使用量を抑えること、別の素材に替えること、長期間使用することが求められています。
再資源化のために必要な取り組み
上記の判断基準(1)の「③再資源化できるものは再資源化すること」、「④再資源化できない場合、熱回収できるときは熱回収をすること」に関するものが、再資源化に向けた取り組みです。
プラスチック資源循環法においては、次の5つの取り組みが定められています。
- リチウムイオン蓄電池などの再資源化を著しく阻害するおそれのあるものの混入を防止すること
- 再資源化を実施することができない場合、熱回収をできるものは熱回収を行うこと
- 自ら熱回収を行う場合、可能な限り効率の高い熱回収を行うこと
- 熱回収を委託する場合、可能な限り効率の高い熱回収を行う者を選定すること
- 廃棄物の飛散や流出など、生活環境の保全上の支障が生じないよう措置を講ずること
この取り組みにおいては、再資源化ができるよう適切に分別すること、再資源化できない場合でも可能な限り熱回収を行うこと、廃棄物の管理を適切に実施することが求められています。
「再資源化事業計画」による特例措置
製造・提供事業者について、特例として廃棄物処理法に基づく業の許可なしに自主回収・再資源化が認められているように、プラスチック資源循環法では排出事業者についても特例措置を定めています。
排出事業者(再資源化事業者を含む)が「再資源化事業計画」を作成し、国の認定を受けると、廃棄物処理法上の業の許可がなくても再資源化事業を実施できます。排出事業者についても、再資源化には熱回収を含まないため、熱回収のみを実施する再資源化事業計画は認定されません。申請者が排出事業者の場合と再資源化事業者の場合で、申請できる対象者が異なります。
排出事業者が申請する場合
自社で排出するプラスチック使用製品産業廃棄物等について再資源化事業を行おうとする者が該当します。この再資源化事業については、収集・運搬または処分をすべて自社で実施する必要はなく、全部または一部を委託して再資源化事業を行うことも可能です(プラスチック資源循環法第48条第1項第1号)。
別の事業者に委託する場合は、認定された再資源化事業計画に記載された事業者にのみ特例が適用されます。再資源化事業計画に記載されていない事業者に委託する場合は、通常通り廃棄物処理法に基づく業の許可を有する業者に委託しなければなりません。
再資源化事業者(複数の排出事業者から委託を受けた)が申請する場合
複数の排出事業者の委託を受けてプラスチック使用製品産業廃棄物等の再資源化事業を行おうとする者が該当します。排出事業者の場合と同様に、収集・運搬または処分をすべて自社で実施する必要はなく、全部または一部を委託して再資源化事業を行うことも可能です(プラスチック資源循環法第48条第1項第2号)。
再資源化事業者の場合も、特例が適用されるのは認定された再資源化事業計画に記載された事業者のみです。再資源化事業計画に記載されていない事業者に委託しないよう注意しましょう。
市区町村によるプラスチック使用製品廃棄物の分別収集・再商品化
これまでは、市区町村が再商品化をしようとした場合、容器包装リサイクル法に規定する指定法人である公益財団法人日本容器包装リサイクル協会に委託して再商品化を行う方法しかありませんでした。容器包装リサイクル法の適用を受けるのはプラスチック容器包装廃棄物のみであり、これに該当しないものはプラスチック使用製品廃棄物として燃えるごみなどとして処理されていました。
プラスチック資源循環法では、資源回収量の拡大を図り、市区町村が収集したプラスチック使用製品廃棄物についても再商品化できる制度を新たに設けました。プラスチック資源循環法により、市区町村が再商品化計画を作成して国の認定を受ければ、認定再商品化計画に基づいて再商品化実施者と連携して再商品化を行うことが可能です。
すでに、宮城県仙台市、愛知県安城市、神奈川県横須賀市が認定されており、今後も認定自治体が増えていくことが期待されています。
違反時の罰則
プラスチック資源循環法では、特定プラスチック使用製品多量提供事業者および多量排出事業者については、判断基準に照らして取り組みが著しく不充分な場合には勧告・公表・命令の措置が実施されることは上述のとおりです。ここで注意したいのが、プラスチック資源循環法には罰則も定められている点です。
勧告・公表・命令の措置に従わず、事業者が命令に違反した場合、50万円以下の罰金が処せられます(プラスチック資源循環法第62条)。なお、同法第66条には両罰規定の定めもあるため、違反行為を行った代表者や従業者だけでなく、法人自体にも罰金が処せられます。特定プラスチック使用製品多量提供事業者および多量排出事業者にとっては、単なる努力義務ではないことを頭に置いておきましょう。
まとめ
プラスチック資源循環法のポイントの解説でした。プラスチック資源循環法は3R+Renewableの考えのもと、プラスチックのさらなる有効利用を図る法律です。事業者によっては、より積極的な取り組みを求められます。製造事業者、提供事業者、排出事業者それぞれの立場から、可能な取り組みを進めていきましょう。