ESGとは?SDGsとの関連や取り組み事例を解説
SDGs(持続可能な環境目標)に関する取り組みが広がりを見せる中で、ESGという言葉を見かけることも増えてきたのではないでしょうか。さまざまな企業のホームページでも、ESGに関する取り組みを紹介しています。しかし、ESGとはどういった内容なのか、まだピンと来ない方もいらっしゃることでしょう。本記事では、ESGの基本的な説明とともに、SDGsとの関係や実際の取り組み事例を紹介します。
ESGとは?
ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字をとって作られた言葉です。ESGは、企業の長期的な成長にとって必要な経営上の3つの観点を表しています。ESGの考え方は、2006年4月に国連環境計画・金融シニシアティブと国連グローバルコンパクトが策定した責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)によって広まりを見せました。PRIは機関投資家に向けて提唱されたもので、持続可能な国際金融システムの構築を目的としています。
E: 環境 (Environment)
環境における判断指標としては、廃棄物はもちろんのこと、気候変動、生物多様性、水資源などの保護が挙げられます。製造業や小売業においては廃棄物の問題は常に考えることが必要な問題であるとともに、投資家から見ても重要な判断指標のひとつとなっているのです。大量生産・大量消費はすでに過去のものであり、廃棄物を削減して環境負荷を最小にすることが、環境保護の観点だけでなく、企業の発展にとっても必要な時代となっています。
S: 社会 (Social)
社会における判断指標としては、労働問題やダイバーシティ、人口問題や格差などが挙げられます。適切な労働管理やダイバーシティの推進といった企業と従業員の関係における課題だけでなく、自社で使用する原材料を生産している取引先から商品やサービスを提供する消費者まで、サプライチェーンを意識した活動が求められています。投資家は、企業がステークホルダーとどのように関わっているのかに関心を向けているのです。
G: ガバナンス (Governance)
ガバナンス(企業統治)における判断指標としては、法令遵守や取締役会の構成のほか、情報開示や株主の権利保護など、企業の透明性や健全性を保つ自己管理の体制が挙げられます。投資家は利益を追求するため、不祥事による企業価値の低下には当然ながら敏感です。ガバナンスの欠如による経営者・従業員の不正行為は、企業の存続に影響を与えます。ガバナンスについては、投資家の注目もさることながら、企業活動においても軽視できない要素といえるでしょう。
ESG投資とは?
ESGの意味を押さえたところで、ESG投資について見ていきましょう。ESG投資とは、企業のパフォーマンスをESGの観点から評価して投資判断に組み込むことで、長期的なリスクを調整してリターンを確保するスタイルの投資です。ESGの考え方は、持続可能な経済社会を目指して提唱されたPRIがきっかけであるため、SDGsと親和性があります。ESGにおける課題はSDGsのゴールやターゲットと共通する部分も多いことから、「ESG経営」にも注目が寄せられています。
ESG経営とは?
ESG経営とは、ESGの観点から持続可能な企業の発展と長期的な価値創造を目指す経営をいいます。ESG投資の考え方のもとでは、投資家は企業の長期的なパフォーマンスに着目しています。ESG投資を呼び込むためには、企業として何を重要課題(マテリアリティ)と捉え、その課題解決に向けてどのような取り組みをするのかを開示することが重要になるのです。環境の観点からは廃棄物の削減や省エネによる温暖化対策、社会の観点からは労働環境の改善や持続可能なサプライチェーンの構築、ガバナンスの観点からは法令遵守や公正取引など、さまざまな面から課題を設定し、取り組みを進めることになります。
ESGとSDGsの違い
ESG経営はSDGsとも関りのある考え方ですが、ESGとSDGsにはどのような違いがあるのでしょうか。両者の大きな相違点としては、行動を求める対象とその範囲が挙げられます。ESGは、国連から機関投資家に向けて提唱された持続可能な経済社会を目指すPRIによって広がったものであり、投資や経営において特に考慮される要素です。他方で、SDGsは国連サミットにおいて国際社会が持続可能な世界を目指して採択した目標です。対象においても、範囲においても、SDGsはESGよりも広く適用されるものといえます。
また、SDGsは2030年を期限として達成を目指す17の目標であるのに対して、ESGは投資の意思決定における要素に過ぎず、それ自体には明確な期限はありません。このように、違いも目立つ両者ですが、持続可能な社会を目指すという目的が共通しているため、ESGの要素を考慮した活動はSDGsの達成に貢献するものなのです。
海外でのESGの現状
ここで、海外のESGの現状について見てみましょう。世界規模で見ると、ESG投資額は年を追うごとに増加しており、2020年の時点での総額はおよそ35.3兆ドルでした。2016年と比較すると、4年間で55%の伸び率となっており、世界レベルでESGが注目されていることがうかがえます。地域別でみると、2018年まではヨーロッパが投資総額14.1兆ドルでもっとも多い地域でしたが、2020年にはアメリカが逆転して投資総額17.1兆ドルで上回っています。
日本でのESGの現状
日本におけるESGの現状は、海外の状況と比較すると進みが遅いものの、確実に成長しています。2016年の投資総額は0.5兆ドルでしたが、2020年には2.9兆ドルまで伸びており、伸び率で見るとおよそ600%です。財務省の報告によると、消費者の行動にもESG指向が見られています。社会的課題の解決に取り組む事業者を応援する消費行動(エシカル消費)に対する好意的な回答は、2016年度から2019年度にかけておよそ20%増加しました。
また、サステナビリティを意識する企業を支持する傾向が拡大しており、フェアトレード認証製品については2021年の推計市場規模が前年比で20%増加しています。日本国内でSDGsが広がりを見せることで、ESG投資にもプラスの影響が出ているといえるでしょう。
ESG経営の取り組み事例
ESG経営における環境に着目した取り組み事例をご紹介します。いずれの企業でも、自社の活動とうまく紐づけることで、事業の一環として取り組んでいます。
イオンモールの取り組み
イオンモールでは「気候変動・地球温暖化」を重要課題として設定し、古着の回収・リサイクル・販売などによるサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現を推進しています。20年以上にわたって廃棄物を細かく分類してリサイクルを推し進め、2021年度には国内の直営モールのリサイクル率が92.7%に到達するなど、着実に結果にもつなげています。
ソフトバンクの取り組み
ソフトバンクでは「テクノロジーのチカラで地球環境へ貢献」を重要課題として設定し、2025年度までの使用済み携帯電話のリユース・リサイクル回収台数1,200万台を目標としています。2022年度までの実績が730万台であったことから、目標値を1,000万台から1,200万台に上方修正しており、積極的な取り組みの姿勢を示しています。
清水建設の取り組み
清水建設では「脱炭素」を重要課題として設定し、太陽光・バイオマス・水力などの再生可能エネルギー発電事業を推進しています。清水建設が携わった再生可能エネルギー発電所は、2023年現在で全国30か所に及びます。太陽光発電所を自ら保有・運営することで、多様なノウハウを獲得しつつ事業を展開している点が特徴的です。
山一商事でのESG経営の取り組み
最後に、山一商事でのESG経営の取り組みをご紹介しましょう。山一商事では、資源循環サイクルの構築に向けて、下記の4点の取り組みを行っています。
プラスチックゴミ削減の新事業への参画
人工芝片を新たなスポーツ用品へと作り替える事業「SHIBA-Up」に再資源化協力企業として参画しています。人工芝片をマーカーコーンなどにアップサイクルすることで、プラスチックゴミの削減に取り組んでいます。
ポイ捨てゴミの可視化を目指した環境スタートアップ
環境スタートアップの株式会社ピリカと連携し、ポイ捨てゴミを可視化する共同研究プロジェクトを実施しました。ごみ収集車のドライブレコーダーを活用した調査サービスの開発に取り組み、2021年に第1回環境スタートアップ大臣賞を受賞しました。
環境スタートアップへの出資
廃棄した衣類を肥料ペレットへと作り替える環境スタートアップに取り組んだクレサヴァ社に出資し、ごみの削減に向けた活動を支援しました。
川越市との基本協定書の締結
昨今の大規模災害の発生を受け、川越市と災害廃棄物の処理等に関する基本協定書を締結し、災害廃棄物の適切な処理に取り組んでいます。
まとめ
ESGの基本的な内容とSDGsとの関連や実際の取り組み事例の解説でした。ESGは投資家の判断指標であるとともに、SDGsの達成にも寄与する要素でもあります。ESG経営の手法により重要課題への取り組みを事業の一環としてうまく取り込むことで、SDGsの達成と自社の利益向上を同時に目指せる形を取れるでしょう。この機会に、ESGの観点から自社の状況を確認し、取り組むべき重要課題を見定めるところから始めてみてはいかがでしょうか。