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トップアスリートと考えるSDGs -スポーツ界からできること-

持続可能な開発目標である「SDGs」が現代社会における不可欠なテーマとなるなか、プロのアスリートたちはこの問題にいかに向き合っているのでしょうか。とりわけ様々な道具を使うスポーツでは、17の目標のひとつである「つくる責任 つかう責任」が身近なテーマとして関わっています。このインタビューシリーズでは第一線で活躍するトップアスリートたちに、自身の「SDGs」に対する価値観を語っていただきます。


第9回 竹内 智香選手 前編

(スノーボードアルペン / 広島ガス所属)

自然に感謝しつつ、
少しでも良い環境を
次の世代に残していきたい


「競技を通じて地球温暖化というものをリアルに感じています」

SDGsという言葉を耳にすると思いますが、このワードに対してどういった知識だったり、イメージを持っていますか?

「偉そうなことを言えるような知識もないですし、何か特別な取り組みをしているかと言えば、そういうわけでもありません。ただ私たちは自然に生かされたスポーツをしていているわけで、意識しなければいけないものだと理解しています」

そのような想いを持つきっかけはありましたか?

「きっかけというわけでもないですけど、感じることはあります。例えば20年前に見た氷河と今の氷河とでは、大きさがまったく違うんです。すごく小さくなっているんですね。ここ(北海道東川町)のスキー場も、以前は12月中旬からクリスマスにかけてオープンできていたのに、年々その時期は遅れてきています。競技を通じて、地球温暖化というものをリアルに感じていますね」

日常生活でも感じることはありますか?

「お菓子のパッケージを開くにしても、日本のお菓子ってたどり着くまでにすごく時間がかかるじゃないですか。紙を開けて、ビニールを開けて、さらにもう一枚包まれていたり。そういったところでも、一人ひとりがやれることはあると思うんですよね。さっき、偉そうなことは言えないと言いましたが、私が地球環境に対してすべてのことをストイックにできるかと言えば、難しいのは確かです。でも今の自分がやっている競技や仕事は、自然があって初めて成り立つもの。そこに感謝しつつ、少しでも良い環境を次の世代に残していけるように意識していきたいと思っています」

地球温暖化の原因は様々あると思いますが、その想いを持つなかで何か具体的に取り組んでいることはありますか。

「簡単にできることと言えば、移動する際も自転車で行ける範囲は車を使わないとか、車を使う場合でも、なるべく台数を少なくするとか。私たち個人ができることはすごく小さいと思いますけど、その小さなことを一人ひとりがちょっとずつ心がけることで、すごく大きなものになると思うんです。一個人としてできることはそういうことですけど、スノーボードという競技を通じて、この立場を通じて、そういうことを伝えていくことができるんじゃないかなと思っています」

スキー・スノーボート界全体では、地球環境に対する取り組みを行っているのでしょうか。

「この業界がやっていることは、極めて地球に良くないことだとは思います。リフトに乗るのも電気を使うし、圧雪車でコースを整備するのにも、ガソリンを使います。もちろん森林を伐採してコースを作ることもそうです。地球に良くないことをしているからこそ、個人ができることは可能な限り努力をして、還元していくことが大事だなと思います」


「使わなくなったスノーボードの再利用の仕方を考えていきたい」

リサイクルの観点でいうと、何か意識されていることはありますか。

「私が契約している『ピクチャー』というブランドのウェアは、リサイクルできるんです。ストッパーにワインのコルクが使われていたり、ウェア自体も再利用することができる。そういうのを着ていると普段からリサイクルを意識することができますし、使えるものを長く使おうという想いも生まれてきます。そういう意味では、リサイクルブランドを作ったり、認知させていくことが、スキーやスノーボード界の地球環境に対する取り組みと言えるかもしれません」

竹内さん自身も、常日頃からリサイクルを意識されているわけですね。

「心がけてはいますが、胸を張って地球環境にいいことをやって、100%の努力をしているかと問われれば、できていないと思います。だからこそ、今回のインタビューはすごくいいきっかけを与えてくれたと思います。この記事を見た人が、環境問題を考えるきっかけになってくれればいいですね。やっぱり、この時代に生きていて、常日頃から地球環境のことを考えている人は、なかなかいないと思います。これだけ便利で贅沢な世の中になっているわけですから。交通手段をとっても、CO2を削減する方法はたくさんあるのに、なかなかやらないというのは、人間には欲があるから。こういうインタビューを通じて発信することで、少しでも変わって行けばいいと思いますし、私自身もこういう風に聞かれることで、改めて気を付けようと思うこともありますね」

先ほどウェアのお話を聞きましたが、ウェア以外にもスノーボードでは様々な道具を使用します。使わなくなった物は、どのように処理されるのでしょうか。

「私たちアスリートは物を無償で提供されます。シーズンごとに新しい製品をいただけるので、その都度使わないものも出てきます。ただ、自分が使わなくなったものは捨てるのではなく、子どもたちにあげたりして、ゴミになるまでの時間をできるだけ長くしようというふうには心がけています」

スノーボード自体はリサイクルできるものなのでしょうか。

「ボードに関して言えば、これまでに自分が乗ったものはすべて保管してあります。莫大な量なんですけど、いつかはそれを使って何かを作れたらと考えています。海外に行くと使わなくなったボードが、ベンチやテーブルとして再利用されているんですね。そういうのを見ると、こういう使い方もいいなと考えたりします。もちろん思い入れはありますが、保管しておくのにも限界があるので、良い再利用の仕方を考えていきたいです」


「使えるものを最後まで使い切る。おもちゃを借りるのは恥ずかしいことではない」

竹内さんが所属されている広島ガスは、森林保全活動として植林などの活動を行っていると聞きました。こういった活動に興味はありますか?

「私自身はその活動に関わっているわけではないですが、広島県内の山で植林などの森林保全活動をしているという話は聞いています。いつかはここ東川町で、そういった活動をしてみたいという想いはあります」

竹内さんは海外で生活される時間も長いと思いますが、海外と比較して、日本人のエコに対する意識をどう感じていますか。

「日本は少し遅れているなと感じますね。リサイクルの問題だけではなく、ヨーロッパでは毛皮だったり、革製品を持つことに罪悪感を感じる人が多いんですよ。そういったところの価値観は、日本とはちょっと違うなと思います。例えば日本の場合は、子どもにもどんどん新しい物を買い与える文化の方が強いと思うんですね。でも私が住んでいたスイスでは、子どもたちはお下がりを着るのが普通だし、おもちゃなんかも新しく買うのではなく、街の図書館のようなところで、1か月100円くらいの値段で貸し出しているんですよ。買うのではなく、借りるという文化は、今の日本にはなかなかないものなのかなと思います」

ちょっと恥ずかしいような感覚がありますよね。

「日本では恥ずかしいと感じるかもしれないですけど、向こうではそれが普通なので恥ずかしいとは感じないんです。私自身も、何でも新しい物を買うという感覚はないですね。もちろん着る物などはスポンサーから提供されますけど、例えば移動の時に使うスーツケース一個買うにしても、できるだけいい物を買って20年、30年と長く使いたいと考えています。古くても、使えるものを最後まで使い切る。それはおもちゃも同じで、使えるのであれば借りて使えばいい。日本だと、100円で借りてきたとは言えない雰囲気がある。それはかわいそうと思われるから。でも、それは決してかわいそうなことではないんですよ」

日本に住んでいるとなかなか得られない感覚ですよね。

「海外に行けば、海外の良いところが目に入りやすく、日本のダメなところに目が行きやすいということもあると思います。でも、間違っていけないのは、日本にもいいところがたくさんあるということ。詳しいわけではないですけど、リサイクルの技術は相当高いと思いますし、他の部分でもエコにつながる活動だったり、技術を生み出しているはずです。だから海外の良いところに目を向けるのも大切ですが、日本の長所が短所をどう補っていくことができるのか。そういう捉え方や考え方も大事なことだと思います」

竹内智香 プロフィール

1983年12月21日生まれ。北海道旭川市出身。165cm ・62g。1998年の長野オリンピックで衝撃を受け、スノーボード競技での五輪出場を決意。2002年に高校生ながらソルトレイクシティ
オリンピックに出場すると、パラレル大回転で22位の成績を残す。その後トリノ、バンクーバー、ソチと4大会連続でオリンピックに出場。ソチではスノーボード競技で日本人女性初のメダル獲得という快挙を成し遂げた。2018年の平昌、2022年の北京大会にも出場し、オリンピック以外でも2012年のワールドカップで1位を獲得するなど、日本スノーボード界に名を残す成績を収めている。

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