「きっかけはどこにでもある。小さいことでもたくさんの人が意識すれば、大きく変わっていく」
――愛子バランスキー
おふたりはコーヒー好きで、カフェに行く際にはタンブラーを持参するそうですね。
愛子 そうです。マイボトルを2人で使っているんですけど、それもエコの観点というよりも、かわいいから使っている感じです。「かわいいな」がきっかけで、いつの間にかマイボトルになって、結果的にエコにつながっている。やっぱり、きっかけは自分が興味を持つことだと思うんです。別に私たちも常日頃から「地球のために、環境のために」って気合いを入れてやっているわけではなくて、興味があること、小さなことから始めているだけなんです。
ザック 無理をして、生活を削るくらいまでにやってしまうと絶対に続かないですし、それでストレスを感じてしまったら本末転倒ですからね。
愛子 フリマもそうですし、今はいろんなアプリで使わなくなった物を簡単に売ることもできます。捨てるのではなく、使える物を再利用するという意識は持ちやすくなっていると思うんですよね。きっかけはどこにでもあると思いますし、知らない間にやっているパターンもあると思います。小さいことでもたくさんの人が意識すれば、大きく変わっていくんじゃないかなって。
SNSで発信したりもしているんですか?
愛子 「やりましょう」みたいに呼びかるのは、あまり好きじゃないですし、「じゃあ、あなたはどれだけ知ってるんですか?」って突っ込まれたら困りますしね(笑)。
ザック プライベートの写真をアップするなかで、しれっとマイボトルが写り込んで、「持ってます感」は出したりしていますけど(笑)。あくまで生活の一部にあるという感じが伝わればいいのかなって。チームではいろいろ活動をしているので、そっちのSNSでは発信していますけど、プライベートでは鼻につかない程度に(笑)。
それを見てくれた人が、ちょっとでも興味を持ってくれればいいわけですよね。
愛子 そうなんです。私のSNSを見て、「このボトルかわいい」と思って、それを使ってもらえれば、それだけで広がったことになりますから。
少し話は変わりますが、おふたりは洋服をシェアすることもあると聞きました。それはエコの観点なのか、それともジェンダーレスの観点なのでしょうか。
ザック 僕の場合はメンズの服しか見ないですけど、愛子はサイズ的なこともそうだし、デザイン的な部分でもメンズの服を見ることもあるよね?
愛子 私はレディースだから、メンズだからという感覚はあまりなくて。メンズと言われる服の中でもかわいい物はたくさんあるんですよ。だからそもそも個人的には、メンズ、ウィメンズって分けるのではなく、誰でも着られるという感じで売っていればいいのになと思うんですよね。最近ようやく、ジェンダーレスの意識が徐々に広まってきているとは思うんですけど、やっぱりまだ、男性、女性という分け方があると感じます。服に関しても、女性がメンズを着てもいいのに、周りの目を気にして、まだまだ恥ずかしさを感じてしまう人もいるのかなって。
愛子さんも恥ずかしいと感じることはありますか?
愛子 一度、前から歩いてきたおじさんが同じTシャツを着ていた時はちょっと恥ずかしかったですね(笑)。でも、私たちの共通の知り合いがスーツを作っているんですけど、そのスーツは男の人でも、女の人でも、カッコよく着られるというテーマで作られているんです。やっぱり男性はカッコよく、女性はかわいく、という分け方がどこかにあると思うんですよ。でも女性でもカッコいいものが好きな人もいるわけで。私もカッコよく着たいタイプだったんですが、今まではそういうスーツがなかったんですよ。だから、そこでオーダーして作ったんですけど、着てみてやっぱりいいなって。私の場合はサイズ的にどうしてもメンズライクになりがちですけど、私のような人はたくさんいるはずで、だからメンズ、レディースという区別をしなくてもいいのになと、すごく思いますね。
ザック 僕はピンクが好きですけど、別に男だから、ピンクを着ちゃいけないって思ったことないですしね。
愛子 最近はランドセルもいろんな色を選べるようになってきていますよね。
ザック 僕らの時は、男子は黒、女子は赤だったからね。
愛子 少しずつ変わってきているなと実感していますけど、もっと広がっていけばいいなとも思います。
「価値観はそれぞれ違うということを、みんなが受け入れないといけない」
――ザック・バランスキー
スポーツの世界では、ジェンダーレスはどのような認識にあるのでしょうか。
愛子 どうなんでしょうか。ただ、バスケの場合はどうしても身体が大きいですし、ショートカットにしている選手も多いので、差別ではないですけど、トイレやお風呂なんかでは、驚かれることは多いですよね。私は慣れているので何とも思わないですけど、なかには傷ついている子もいるかもしれない。そういう意味ではアスリート女子は、普段生活するうえで結構難しいところはあると思います。もっといろんな人が生きやすい世界だったらいいなとはすごく思いますね。
さまざまな考えを発信する人も増えていますが、一方で発信しづらいという部分もあるかもしれないですね。
愛子 それもあると思いますし、別に発信する必要もないのかなと。
ザック 今は世界的にもジェンダーをなくそうというふうになっているけど、ダブルスタンダードというか、いざカミングアウトした時に色眼鏡で見られてしまう。なくそうと言っているわりには、オープンにした途端に態度を変えちゃうから、そこは不思議に思いますね。今までと違う関わり方をされるのが怖いというのがあるから、言いたくてもなかなか言えない人がいるのかなって。
浸透しきっていないのもあるでしょうし、自分事として捉えられていない部分もあるんでしょうね。
ザック 言っていることと行動が違う人は結構いるなと。周りにいない人こそ、「いいじゃん」と言っておきながら、いざ自分の周りにいたら「えっ、あの人そうだったの?」っていう感じで。態度を変える人はやっぱりいるらしいので、トランスジェンダーの方たちにとっては、まだまだ生きやすい世界ではないのかなと。
そこに対して我々はどう向き合っていく必要があると思いますか。
ザック 人それぞれ愛の形が違うと思いますし、自分の考えがすべて正解、不正解というわけでもないですよね。100人いれば100通りの考え方があるわけで、答えはひとつではないんですよ。価値観はそれぞれ違うということを、まずはみんなが受け入れないといけないと思います。もちろん人に迷惑かけるのはダメだけど、その人が幸せに生きていれば、どんな人を愛しても、どんな生活を送っても、その人の自由です。許容することが大事だと思いますし、その意識がみんなの平等にもつながっていくのかなと思いますね。
多岐に渡るテーマで語っていただきましたが、おふたりが今後、SDGsの取り組みとしてやっていきたいことってありますか?
愛子 やっぱり、ふたりとも服が好きで、自分たちでも作っているんですけど、現状はまだリサイクルに対する知識が不足していて、どういった素材がリサイクルや環境に優しい物なのかを分かっていない部分もあります。そこはしっかりと理解したうえで、「つくる責任」「つかう責任」というものを意識してやっていきたいですね。
ザック 作って、売って、ハイ終わりじゃなくて、作って、どう使って、どうやって未来につなげていくのか。そういうところまで考えながらやっていく必要があると思います。あとは、僕たちはずっとバスケをやってきたので、バスケを通じた取り組みもしていきたいですね。例えば、バスケット教室をやった後にみんなでゴミ拾いをしたり。子どもたちにバスケを楽しんでもらって、その後にみんなで街をきれいにする。そういう活動ができたらいいなと思っています。
愛子 そうですね。未来を担う子どもたちと一緒に、世の中にある問題を知っていくことが大事だと思います。私たちももっと知識を増やして、バスケを通して伝えていければと思います。
ザック・バランスキー プロフィール
1992年12月18日生まれ、アメリカ出身。193cm・93㎏。日本生まれで、再来日した10歳以降は日本で育った。東海大三高(現・東海大付諏訪高)では全国大会に出場。東海大ではインカレ2連覇を経験した。2015年に当時NBL所属のトヨタ自動車アルバルク東京(現アルバルク東京)に入団。持ち味である泥臭いディフェンスと3ポイントシュートを武器に、チームの中心として活躍する。2017-18、2018-19シーズンの連覇に大きく貢献した。
愛子 バランスキー プロフィール
1992年、千葉県生まれ。東京成徳大高校在学時に全国高等学校バスケットボール選手権大会3位入賞。2011-2015シーズンまで日立ハイテククーガーズに在籍。2016年にJX-ENEOS(現ENEOSサンフラワーズ)に移籍加入。JX-ENEOSで3回、Wリーグ優勝メンバーとなる。2020-21シーズン限りで現役引退。2021年8月にザック・バランスキーと入籍。
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