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トップアスリートと考えるSDGs -スポーツ界からできること-

持続可能な開発目標である「SDGs」が現代社会における不可欠なテーマとなるなか、プロのアスリートたちはこの問題にいかに向き合っているのでしょうか。とりわけ様々な道具を使うスポーツでは、17の目標のひとつである「つくる責任 つかう責任」が身近なテーマとして関わっています。このインタビューシリーズでは第一線で活躍するトップアスリートたちに、自身の「SDGs」に対する価値観を語っていただきます。


第15回 桃野慎也選手 前編

(プロスノーボード選手)

環境問題を考えた
農業とスノーボードの“二刀流”生活


生活が苦しくなったことと食への興味が農業につながった

プロスノーボーダーである桃野選手が、農業を始めたきっかけはなんだったのですか?

「北海道の実家が農家なのでいつかはやろうとは思っていたんですけど、そのいつかは決まってはいませんでした。ただ2018年頃から怪我が続いてしまったんです。それまでは会社に所属していましたし、スポンサーも付いていたのでスノーボードだけで生活できていたんですよ。でも、怪我をした時にスポンサーがなくなって、そのタイミングで所属会社も倒産してしまった。これはまずいなと(笑)」

それで実家を継ごうと?

「いや、その時はまだ蓄えがあったので、怪我を直して、またいい結果を出せば前のような生活に戻れると思っていたんですよ。リハビリを一生懸命やって、またスノーボーダーとして生きていきたいと。ただ、収入がないのにその時にかなりのお金を使っちゃったんですよね。自腹で遠征費を出したり、より良いトレーニングをするために出費がかさみました。そしたら、また大怪我をしちゃって、当分ボードができなくなってしまったんです。収入もないし、貯金も底を尽きた。スノーボードで闘える身体もない。かといって働くスキルもない。そこで反省しましたね。今までスノーボードだけをやってきたことを。これではまずいと考えて、実家に戻って農業を始めることにしました」

それはいつくらいの時ですか。

「2019年の春に大怪我をして家の仕事を手伝い始めたんですが、実際に就農したのは2020年です。ローンを組んで自分の畑を買って、それで今年に入って自分の会社を立ち上げたんです」

大豆を作られているんですよね。

「そうです。もともと実家でも代々、大豆を作っていたんですが、怪我をした時に栄養学を学んだんですよ。いいパフォーマンスを発揮するには、食事が大事だということで、いろんな本を読んだり、話を聞いたりして、食の知識を身に付けたんです。そのタイミングで農業に関わることになったんですが、大豆を使って何かできないかと考えた結果、会社を立ち上げて大豆を使ったプロテインや大豆ミートの販売につながっているんです」

大豆製品は今、注目されていますよね。

「スノーボード復帰を目指している時に、かなりのお金を使ったって言ったじゃないですか。その時、アメリカに身体の検査をしに行ったんですよ。そこで日本人は乳製品が合わないから、乳製品を摂るのを止めろと言われたんですね。それだけで、身体の動きが良くなるよって。僕のやっているスノーボードクロスは、0.1秒、0.05秒の世界で争っているので、ちょっとでも身体の動きが良くなれば、その分結果が変わるんです。だから、それまでは牛乳由来のホエイプロテインを飲んでいたんですが、大豆で作られるソイプロテインに変えたんです。それで農業に携わるようになって自分でも作ってみようと。ようやく今年7月に完成して、販売できるようになりました」

いろんなタイミングが重なって、今の状況が生まれているわけですね。

「そうですね。怪我をして生活が苦しくなったことと、食に興味があったこと。そのふたつが上手く重なったことが農業につながっていると思います」


スイスでの生活が環境問題への意識を高めるきっかけとなった

一方で桃野選手は、農業をやりながらもスノーボーダーとしての活動も続けていますよね。そのなかで環境問題に対する関心も高くなったと聞きました。

「僕はスイスを拠点に活動しているのですが、はじめてスイスに行ったのが18歳の時。今から12年くらい前なんですが、そこのスキー場のある村では、ガソリン車が走っていないんですよ。全部、電気自動車でガソリン車は立ち入ることができないんです。理由は地球の温暖化です。氷河が年々溶けていて、ゆくゆくはなくなってしまうという試算もでているほどですから。スイスでは環境問題に対する意識が高いなと感じますし、そこに10年近くもいれば僕自身も自然と環境問題を考えるようになりました」

その意識が、農業に影響を与えている部分はありますか。

「そうですね。SDGsに関する本もたくさん読んで、勉強しています。例えば今は畜産も問題になっているんです。食肉を作るのって、実は環境負担が大きいんですよ。牛が食べるエサは大豆や穀物なんですけど、それを大量に食べるわりに、ちょっとしか肉ができない。牛を育てるのには水も土地もたくさん使う。食糧危機と言われている時代に、肉を作るためにかなりのものが消費されているんですよ。牛のメタンガスも問題になっていますよね。でも、特に最近は中国で牛肉が人気で、肉を作れば儲かるんですよ。だからアメリカや南米では、過剰に肉を作っているんです。大量生産、大量消費の流れが生まれているんですが、それは環境的には良くないことだと考える人もいるようです」

一方で最近では、代替肉として大豆ミートなどが注目され始めていますね。

「大豆ミートとか、ビヨンドミートとか、インポッシブルフーズとかですよね。アメリカでは環境問題に配慮した企業も増えていて、植物由来の人工肉などを開発する企業がどんどん成長しているんです。僕自身も今やっていることは、結果的にSDGsだと思っています。大豆を使った植物性たんぱく質を広めることで、環境負担の軽減につながっていくんじゃないかって」

桃野慎也 プロフィール

1992年10月21日生まれ。北海道出身。小学1年生でスノーボードを始め、2年生の時にスノーボードスラロームの大会に初出場し、初優勝。4年生の時にはスノーボードクロスの大会に初出場し、初優勝を成し遂げた。中学2年生の時には全国大会アルペンで2冠を達成。高校2年生でスノーボードクロスの日本代表入りを果たし、以降は競技をスノーボードクロス1本に絞る。高校3年生の時にはジュニア世界選手権(ニュージーランド)に出場し、その成績が評価され18歳にして世界選手権スペインに出場。大学1年生からワールドカップツアーに参戦。ソチ五輪前の予選では5位と日本人男子史上最高記録を出したものの、決勝で勝つことができず、オリンピック出場を逃した。2016年3月World Cupスペインで日本人男子史上初の8位入賞を果たした。2020年に就農し、スノーボードとの“二刀流生活”をスタート。2022年4月に『YOUR FARM合同会社』を設立した。

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