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トップアスリートと考えるSDGs -スポーツ界からできること-

持続可能な開発目標である「SDGs」が現代社会における不可欠なテーマとなるなか、プロのアスリートたちはこの問題にいかに向き合っているのでしょうか。とりわけ様々な道具を使うスポーツでは、17の目標のひとつである「つくる責任 つかう責任」が身近なテーマとして関わっています。このインタビューシリーズでは第一線で活躍するトップアスリートたちに、自身の「SDGs」に対する価値観を語っていただきます。


第20回 安藤誓哉選手 後編

(プロバスケットボード選手/島根スサノオマジック所属)

バスケットボールを通じて
島根県を盛り上げていきたい。


コーヒービジネスではフェアトレードという考え方が大事になってくる

前編では過重労働の話も出ましたが、安藤選手が好きだというコーヒーに関して、「フェアトレード」という取り組みが注目されています。生産者を守る仕組みなのですが、これについてはどう感じていますか。

「僕も去年から好きが高じてコーヒービジネスを立ち上げたのですが、とても興味深い取り組みだと思います」

どういう目的で立ち上げたのでしょう?

「まずコーヒーが好きというのがあって、僕の飲んでいるコーヒーをファンの方も飲んでくれたらいいなと思ったのがきっかけです。今は日本にある豆をブレンドして、オリジナルブランドとして販売していますが、将来的には生産国に行って、コーヒー豆を選ぶところからやっていきたいと考えています。そうなると生産者と接点を持つことになるので、フェアトレードという考え方は大事なことになってくると思います。もちろん僕にできることは小さいことだと思いますけど、僕がもし生産者と直接契約することになれば、今よりも少しは豊かになるような仕組みを作っていきたい。おいしくコーヒーを飲ませてもらっているわけですから、その分、しっかりと還元しなければいけないと思います」

ビジネスとしての今後の展望は、どういったものでしょう?

「今、ちょっと考え中です。今まではネット販売が中心でしたが、いくつかお店にも置いてもらっていますし、一度試合会場のキッチンカーでも販売しました。最近やっと出雲空港にも置いてもらえるようになって、縁結びパッケージというものも販売させてもらっています。次の展開もいろいろ考えてはいるんですが、ベースにあるのは、やっぱり僕のコーヒーを多くの人に飲んでもらいたいということ。そのなかに、フェアトレードという考え方も取り入れていきたいですね」

現在は島根で生活されていますが、安藤選手はカナダ、フィリピンと、海外でのプレー経験もあります。日本とは違う環境や文化に触れるなかで、何か感じるものはありましたか。

「印象的だったのは、フィリピンです。富裕層の町から貧困層の町までが、車で走れるくらいの距離の中にあったりするので、社会の格差というものを間近に感じられました。それでも貧しいなかでも、みんな楽しそうに生活しているんですよ。最初はちょっとかわいそうという感情はありましたけど、彼らは苦しいなかでも前向きに生きていて、だからそういう感情は必要ないのかなと。もちろん、貧困をなくし、生活が豊かになるようなことは社会全体でやっていかなければいけないことだとも理解しています」


地方に来たからこそやれることはある。
応援される側の責任も感じています

貧困層との交流もあったのですか?

「試合が終わった後に子どもたちが寄ってくるんですよ。その中には僕が持っていた食べ物をくれという子どももいました。日本ではありえないようなカルチャーに触れたことは、ショックな部分もありましたけど、見識を広められたという意味ではいい経験になったと思います。それにフィリピンはバスケが国技なので、本当に選手のことをリスペクトしてくれるんですよ。日本でもバスケは人気が出てきましたけど、フィリピンは国技の国だけあって熱量がものすごくて、日本で味わう感じとは全然違いましたね」

島根の人たちはどうですか?

「町で声をかけられることは多いですし、島根の人たちもなかなか熱狂的ですね。島根県には他のプロスポーツチームがないので、僕たちのチームを本当に熱く応援してくれています」

なぜ、島根のチームを選んだのでしょう?

「もちろん都会に比べれば人口も少ないですし、静かなところがいいところでもあります。でもバスケというエンターテイメントを通じて、週末になると盛り上がる。そうすれば町全体が、活気づくと思いますし、実際にそうなってきていると感じます。勝ちも、負けも一緒に味わっているという感覚は、この2年間ですごく感じたことですし、ファンの期待の大きさも感じています」

地方創生もSDGsの目標のひとつとなっています。バスケを通じて町を活性化しているという意味では、すでにSDGsにつながっているのかもしれません。

「そう言われると、そうですね。誰が見ても盛り上がってきたと思うし、勝ちも負けも共有できるのがスポーツの醍醐味だと思いますから。地方に来たからこそやれることはありますし、東京に住んでいてはできないこともある。島根県をガラッと変えることは簡単なことではないですけど、毎試合、会場が満員になれば、島根の経済も少しは動くと思う。それに、やっぱり僕たちには応援される側としての責任もあるんですよ。バスケットボールという競技の中で自分を応援してくれる人たちに対して、最高のパフォーマンスを見せて喜んでもらう。それでみんなの気持ちが豊かになって、元気になると、町はさらに活性化すると思うんです。チームが強くなって、町も盛り上がっていくような良い循環が生まれてくればいいですね」

(取材協力:THE PUBLIC SIX、写真提供:SHIMANE SUSANOO MAGIC)

安藤誓哉 プロフィール

1992年7月15日生まれ。東京都出身。小学校1年生でバスケットボールを始め、年代別代表でも活躍。明治大在学中に海外挑戦を決意し、アメリカのマイナーリーグを経て、カナダのプロリーグ(NBLカナダ)に所属するハリファックス・レインメンへの入団を勝ち取った。同リーグで初の日本人選手となっただけでなく、ルーキーながら全試合に出場するなど存在感を放ち、翌年にはアジアの強豪国であるフィリピンのプロリーグ(PBL)所属のメラルコ・ボルツへ移籍。その後国内での移籍を重ね、2018年にはアルバルク東京でBリーグ優勝に大きく貢献した。翌2019年に連覇を果たすと、FIBAワールドカップ日本代表にも選出された。2021年より島根スサノオマジックに所属する。

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