SDGs11とは?現状や取り組みについて解説
世界にはさまざまな人がそれぞれの環境で暮らしていますが、人々はより良い生活を求めて都市へ移動しており、数年後の2030年までには世界人口の6割以上が都市に集まると予想されています。これによりスラムの拡大、大気汚染、インフラの不足、地方の過疎化など、たくさんの問題が起きているのです。
これらの問題に対し、SDGsでは地球上の全ての人が安心安全で持続可能な暮らしができるよう「住み続けられるまちづくりを」という目標が掲げられています。
ここでは、この目標11「住み続けられるまちづくりを」の概要や現状、そして私たちが取り組むべき課題についてご紹介します。
SDGs11「住み続けられるまちづくり」とは?
SDGs11では、「住み続けられるまちづくり」を「包摂的で安全かつ強靭 (レジリエント) で持続可能な都市及び人間居住を実現する。」と定義しています。『包摂的』とは誰一人取り残さないこと、『強靭 (レジリエント) 』とは柔軟で回復力がある状態を表しています。つまり目標11は、誰もが安心安全で持続可能な生活を続けられるまちづくりを目指しているのです。
これだけ聞くとスケールが大きく、自分たちには関係が無いと感じるかもしれせんが、住宅価格の高騰、交通インフラの機能低下、自然災害、私たちの暮らしに直結するテーマも含まれています。まずはSDGs11が掲げる、具体的なターゲットから確認してみましょう。
SDGs11のターゲット
目標11では、7つのターゲットと3つの実現方法が定められています。
番号 | ターゲット |
---|---|
14.1 | 2030年までに、すべての人々の、適切、安全かつ安価な住宅及び基本的サービスへのアクセスを確保し、スラムを改善する。 |
14.2 | 2030年までに、脆弱な立場にある人々、女性、子ども、障害者及び高齢者のニーズに特に配慮し、公共交通機関の拡大などを通じた交通の安全性改善により、すべての人々に、安全かつ安価で容易に利用できる、持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する。 |
14.3 | 2030年までに、包摂的かつ持続可能な都市化を促進し、すべての国々の参加型、包摂的かつ持続可能な人間居住計画・管理の能力を強化する。 |
14.4 | 世界の文化遺産及び自然遺産の保護・保全の努力を強化する。 |
14.5 | 2030年までに、貧困層及び脆弱な立場にある人々の保護に焦点をあてながら、水関連災害などの災害による死者や被災者数を大幅に削減し、世界の国内総生産比で直接的経済損失を大幅に減らす。 |
14.6 | 2030年までに、大気の質及び一般並びにその他の廃棄物の管理に特別な注意を払うことによるものを含め、都市の一人当たりの環境上の悪影響を軽減する。 |
14.7 | 2030年までに、女性、子ども、高齢者及び障害者を含め、人々に安全で包摂的かつ利用が容易な緑地や公共スペースへの普遍的アクセスを提供する。 |
11.a | 各国・地域規模の開発計画の強化を通じて、経済、社会、環境面における都市部、都市周辺部及び農村部間の良好なつながりを支援する。 |
11.b | 2020年までに、包含的、資源効率、気候変動の緩和と適応、災害に対する強靱さ (レジリエンス) を目指す総合的政策及び計画を導入・実施した都市及び人間居住地の件数を大幅に増加させ、仙台防災枠組2015-2030に沿って、あらゆるレベルでの総合的な災害リスク管理の策定と実施を行う。 |
11.c | 財政的及び技術的な支援などを通じて、後発開発途上国における現地の資材を用いた、持続可能かつ強靱 (レジリエント) な建造物の整備を支援する。 |
SDGs11の具体的な課題
目標11では、ゴミ問題や大気汚染等の環境問題、経済格差、自然災害、人口問題といったさまざまなテーマが取り扱われています。これらは全て、私たち人間の暮らしに深く関わることばかりです。そしてそれぞれのテーマ同士も密接に関わっており、そのすべてを全員で協力して解決していくことが求められます。
ここからは、目標11の具体的な課題と世界の現状を見ていきましょう。
都市人口の増加と経済的な格差の拡大
現在世界人口の半数以上が都市に住んでおり、世界の国内総生産の70パーセントが都市から生み出されています。都市に移動する人は増えており、2030年までには全体の2/3が都市住民になるという予測もあります。
しかし一方で、2014年時点で都市人口の約30パーセントはスラムのような環境で暮らしていました。このようなスラムの拡大で経済的な不平等が増しています。誰もが「住み続けられるまちづくり」のためには、経済的格差の解消、貧しい人々もアクセスしやすいインフラや交通の整備が必要です。
日本においても、人口の半分以上が3大都市圏に住んでいます。都市部への人口流出により地方の人口減少や高齢化が進み、地方経済の悪化からくるさまざまな課題が存在します。特にインフラ整備や災害対策は、そこに住む人々を守るため、迅速に取り組む必要があるでしょう。
地方の活性化とその持続のため、「住み続けられるまちづくり」への取り組みが重要視されています。
自然災害の増加
ユニセフのレポートによると、住民の移動を余儀なくさせる災害の年間発生数は1980年台半ば頃までは100件以下でしたが、その後急激に増加し2010年代には300件に迫る年もありました。干ばつ、台風、豪雨等により、やむなく移動を強いられる人や、食糧危機にさらされる人も大幅に増加しています。
また、1990年から2013年に発生した自然災害によって命を落とした人の約9割が、低所得国や開発途上国に住む人々でした。貧困地域での災害は、特に復旧に時間を要するため、被害が長引き、さらなる貧困の加速を生み出してしまいます。
災害被害を最小限に抑えるインフラ、被害が起きてもスピーディーに復旧するための回復力を整えることが重要です。
「弱い立場」にいる人々への配慮
SDGs全体に共通する考え方ですが、目標11は包摂的 (インクルージョン) という言葉を用いて、誰1人取り残さずに目標を達成することを掲げています。
世界には、子供、女性、高齢者、貧困に苦しむ人、体が不自由な人など、さまざまな理由で弱い立場にいる人々が存在します。バリアフリー化、安価で自由な移動手段の充実、就労支援、住みやすいインフラの整備といった対策が求められます。
また災害等の非常時にも、弱い立場の人々が平等に守られるような準備が必要です。
ゴミが与える環境への負荷
世界銀行によると、世界の都市ゴミは現在の推定20トンから、2050年には34トンに増加すると予測されています。ゴミの増加による大気汚染や環境負荷は、全ての国や地域の共通課題です。
その中でも日本はリサイクル率が20パーセント以下と低く、適切で細かい分別や焼却中心の処理からの脱却が求められます。個人はもちろん、事業者も適切に産業廃棄物を処理し、リサイクルの促進をすることが重要です。
また、不法投棄など無責任な行動を未然に防ぐ対策も必要です。
世界のSDGs11の現状
世界でも都市の環境問題、格差が課題として挙げられています。その中でも、ヨーロッパを中心に住みやすい都市に向けた取り組みが実践されています。
具体的には、歩道や自転車道の整備、個人所有車の走行が禁止される「カーフリーデー」の実施、公共交通機関の無料化等で都市のインフラ改善を進めています。これらの政策は、渋滞緩和や交通事故数の減少、大気汚染の改善への繋がりが期待できます。
またベルギーの首都ブリュッセルには、地域内で排出される温室効果ガスの約半分を占める、冷暖房のエネルギー消費を減らす政策があります。新築は省エネ基準を満たす義務があり、中古物件は政府の補助によって断熱材をつけるリノベーションが進められています。これには経済的理由で冷暖房を使用できなかった貧困層の暮らしを改善する効果もあり、格差の是正にも繋がります。
出典: SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」とは?世界と日本のいま (朝日新聞デジタル)
日本のSDGs11の現状
日本も、世界と同じく目標11に関連する課題を抱えています。そのなかでも特に関連性が高いのは、都市圏への人口一極集中や自然災害といったテーマです。
人口流出が進む地方都市では、高齢化や過疎化、それによる交通インフラ等の機能低下が見られます。一方、都市圏では人や建物が過密状態にあり、台風や地震などの自然災害が起きた場合には大きな被害につながる恐れがあります。大きな建物の損壊、大量の帰宅困難者、交通や水道といったインフラ機能の停止により、長期にわたり大きな混乱が起きるでしょう。
SDGs11に対する企業の取り組み
日本国内の企業においても、目標11を達成するためのさまざまな取り組み事例が確認できます。
積水化学グループ
積水化学グループは、埼玉県朝霞市で「安心・安全で環境にやさしく、サステナブル(持続可能)なまち」作りに取り組んでいます。ここではその取り組みの一部をご紹介します。
- 水道管やガス管に、地震で壊れにくくさびにくいポリエチレン素材を使用
- 各住宅の駐車場地下に雨水を一時的に貯められる設備を設置し、水害対策
- 全ての住宅に太陽光発電パネルを設置し、「エネルギーの自給自足」を実施
- 家の寿命を国内平均より20年以上長くする工夫
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社は、全ての人が自由に安心安全な移動ができることを目指し、新たなモビリティ「e-Palette(イー・パレット)」の開発を進めています。このe-Paletteを導入することで、下記のような未来が期待されています。
- 自動で走るため、運転手が少ない地域でバスやタクシーの代替として活用
- 車椅子利用者や高齢者など、移動が困難な人の元に自動で駆けつける仕組み
- 単なる移動手段ではなく、モノやサービスを運ぶ手段としての可能性
ヤフー株式会社
ヤフー株式会社は、災害時のタイムリーな情報提供を目指した災害協定を拡大させています。
- 各自治体との協定締結を進め、災害時の情報集約、整理、提供を担う
- 2018年に電気事業連合会と「災害に係る情報発信等に関する協定」を結び、災害時のホームページアクセス負荷軽減を図る
- 2019年に日本ガス協会と協定を締結し、ライフライン情報の配信を準備
山一商事での取り組み
山一商事でもSDGs11の達成に向けた取り組みを行っています。具体的には植林活動の実施、山林保有または環境保護推進活動に対する寄付などを推進しています。サステナビリティに関する活動については、こちらをご覧ください。
SDGs11に向けて個人でできること
さまざまな課題を取り扱う目標11ですが、実は地球に住む私たちの暮らしがメインのテーマになっています。ここでは目標達成のために個人で実践できることをご紹介します。
- 地域の活動に参加し、町や住民の状況を知る
- 地方移住体験に参加し、地域の良さや課題を体感する
- 防災意識を高め、万一のための準備をする
- 自動車ではなく、公共交通機関、徒歩、自転車を選ぶ
- クリーンエネルギーや断熱性のある建物を選ぶ
- ゴミの分別・排出ルールを守る
- ハーブや野菜等の家庭園芸にトライする
まとめ
今回はSDGsの11番目のゴール「住み続けられるまちづくり」をもとに、世界や日本の現状と課題をまとめました。ターゲットを見ると内容は幅広いですが、私たちの暮らしに深く関わる課題ばかりです。
このままでは、日本、そして地球に住み続けられなくなる日が来てしまうかもしれません。個人でできることに取り組むことは大切ですが、その知識や経験を周囲に発信することも効果的です。自分が良ければ良いという考え方ではなく、誰一人取り残さない地球視点の行動をとっていきましょう。